#013 モノノケ

    もののけといえば、宮崎作品の「もののけ姫」のイメージが強いかもしれません。あるいは源氏物語などに出てくる「祟りなす怨霊や生霊」のイメージもわりとあると思います。

    同じ「もののけ」といっても色んなイメージがあるので、もののけ姫につながるところと、平家や源氏といった文学作品お約束のものとを取り上げようと思います。

    1.古い時代、「もの」はどういう意味の単語だったか?

    これは単純に「物質」をあらわすだけではなく、「魂」とか「神」とか「鬼」とか、あるいは「生命エネルギー」「宇宙に偏在する神秘の力」みたいな霊的な意味合いを持っていたと言われています。

    古事記にも出てくる三輪の神様の名前はオオモノヌシと呼ばれます。これは「大いなる神霊の主」とでも現代語訳することができます。

    もの=霊的な目に見えない何か

    とした場合、「もののけ」は「霊的なエネルギー」と解することもできるでしょう。

    このイメージだと、森に目線を向ければ「森のもののけ=森に存在する目に見えない聖なる力」といったイメージになるので、宮崎アニメの「もののけ姫」の中のもののけたちともわりと近しいところになるでしょう。

    俗っぽく精霊崇拝やアニミズムというワードを使って説明してもいいのですが、この言葉は時に「聖書に基づく宗教が高級なもので、自然界のあらゆる要素に目に見えない精霊を見るといった思想を低級なもの」みたいにヨーロッパ文化第一主義のバイアス(偏見)がかかることがあるので、今回は避けました。

    余談ですが、ラテン語のANIMA(魂・アニマ)がアニミズムの語源ですが、身近なカタカナ語だとANIMATION(アニメーション)もラテン語のアニマ(ANIMA/魂)に由来します。

    英語の辞書を引くとANIMATION(アニメーション)は

    1.生気を与える2.動画

    とありますが、1は魂に由来するのが連想しやすい意味ですね。


    2.平家物語などの中での物の怪

    古文の授業でよく扱われる源氏物語や平家物語の時代になると「物の怪=病気の原因としての怨霊や生霊」という扱われ方が登場します。

    病気は物の怪によって引き起こされるので、物の怪を祈りや呪いで退治すればよくなるといった考え方です。呪いで退治というのは、例えば鬼の絵をかいてそれを痛めつけることで病気の原因としての物の怪を退治するといったイメージです。

    平家物語には平家出身の中宮(のちの建礼門院)の御産(ごさん)をモノノケが妨害している場面があります。

    日本史上の有名な怨霊と言えば

    ・藤原氏との政争に敗れて太宰府に流されて死んだ菅原道真
    ・保元の乱に敗れて流刑の地で無念の死を遂げた崇徳院
    ・関東に武士の独立政権を建てようとするも戦いに敗れて死んだ平将門

    あたりが有名ですが、平家物語の時にタイムリーだった怨霊は少し前の保元の乱の戦いで敗者となって無念の死を迎えた崇徳院や藤原頼長です。

    中宮の御産(ごさん)にこうした怨霊の祟りでさわりがあってはまずいということで、朝廷は崇徳院や藤原頼長といった怨霊の待遇をよくすることもしています。また、流刑にした人たちの生霊もさわりがあるという話だったので、流刑にした人たちの一部の人の罪を許してもいます。

    また、平家物語の中宮の御産の時はたくさんの僧侶が呼ばれて祈祷をしていましたが、僧侶たちだけでなく当時の朝廷の最高権力者である後白河法王も自ら「悪霊退散!」的にモノノケを退散させる祈祷をしていました。これは当時としても少し珍しい話だったようです。

    平安時代の病気の原因としてのもののけへの対策としては、強大な怨霊が対象なら祟りを恐れて奉るような対応もありうるが、通常は祈りや呪いのパワーで殴りつけて退治するという流れとして理解しておけばよいでしょう。

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