#005 龍

    動物・幻獣

    日本の龍の3つの起源

    1つめは、中国大陸の龍です。水の神であり、皇帝を守る守護神でもあります。もちろん中華料理店に龍の装飾が多いことからも推測できるように、庶民から愛される存在でもあります。1つは、インドのナーガという蛇の神を起源とする、竜王、仏法守護の龍神です。これは半人半獣なコブラっぽいイメージから中国大陸風の衣服をまとった人間の姿にかわるイメージです。もう1つは、古事記や日本書紀の時代からある「蛇の神 」や「オロチ」です。スサノオが退治するヤマタノオロチも巨大な蛇ですが、オオモノヌシなど神様の本体が蛇とされる事例もあります。

    現代人に関して言えば、ヨーロッパから入ってきたドラゴンのイメージも若干重なってることもあると思われます。

    東洋の龍と西洋のドラゴンとの違い

    違いその1としては、西洋のドラゴンは火をはき、東洋の龍は水をつかさどるという点です。(※1)

    違いその2としては似ている動物で、東洋の龍は蛇に近いものが多いですが、西洋のドラゴンはどちらかというとトカゲに近いものが多い印象です。

    最も大きな違いとしては、西洋の伝承のドラゴンは正義の騎士に退治される悪役であることが多いですが、東洋の龍や蛇は聖なる存在であることが基本という点です。やられ役なのか神なのかという点の違いです。

    中国の龍と日本の龍の違い

    中国のほうが皇帝から庶民まで龍の存在感が強いというのが1つ。もう1つは中国大陸の王朝は元の時代くらいから「5つ爪の龍は皇帝専用」みたいに身分制度の表現として龍の爪を使ったことがあります。ただ、日本列島にはあまりこうした爪の数で身分差を表現するという風習は入ってこなかったという点です。

    日本の龍は爪が3つの龍が多いですが別に格が低いわけではなく、爪の数で格付けする文化ではなかったということです。

    龍王の宝物

    仏法の守護者としての龍王と呼ばれる龍は「如意宝珠(なんでも願いをかなえる珠)を持つ」という設定もついてます。

    古い時代の海幸山幸の神話などにも「海の神が塩の満ち引きをつかさどる宝珠を持っている」という設定はあるので、そこから発展して仏教流入以降は「海の神である龍王は如意宝珠をもつ」という設定がついたという推測もできるでしょう。

    そして、願いを叶える龍の玉という発想は漫画の世界ではドラゴンボールの神龍にその設定の遠い子孫を見ることができます。

    八大龍王、雨やめさせたまえ

    水をつかさどる神としての龍王には2つの属性があって「恵みの雨」「災害な雨」とどちらも扱います。なので、昔の雨乞いやその逆の儀礼に関して言うと、日照りが続いて困っている人間は「龍王よ、あめをふらせたまえ」と祈りますが、雨続きで困っている人間は「八大龍王、雨やめさせたまえ」と祈るわけです。

    この辺り、日本の龍は善神であることが基本であるとはいえ「天災」であることもなくはなかったということが読み取れます。災いの龍で最も有名なのはスサノオに退治されるヤマタノオロチでしょう。

    龍と蛇はわりと親戚

    三輪山の神の本体が蛇だった話など、日本の神様には神は蛇の形をしているという神話が存在します。弁財天も蛇でもあり竜神でもありという信仰がされていました。弁財天社の中には「卵」を供え物にするところがありますが、これは本体が蛇であるので好物の卵を献上しようという発想です。

    日本の場合、蛇と龍は聖なる存在に通じることが多いですが、ダークサイドなイメージが0というわけでもなく、仏教伝来以降は「煩悩の象徴としての蛇」というイメージも登場します。道成寺という伝説では、妄執から大蛇となって身を焼く女性が登場しますが、絵巻物だとこわーい龍に描かれています。

    龍と蛇の境目があまりはっきり区切られていないのが日本の伝承の1つの特徴と言えるでしょう。

    龍のまとめ

    龍は非常に人気のあるモチーフですが、日本で龍的なものを見る場合、聖なる水神としての龍が基本イメージになります。

    また、龍と蛇のイメージの境界線がわりとあいまいな点は、龍神や蛇の神について何か疑問をもった時に思い出してみると意外な発見があるかもしれません。

    ヤマタノオロチのように英雄が龍を倒す伝説的や道成寺伝説のように悪い感情によってダークサイドな蛇になるという伝説も存在はしていますが、神社やお寺を飾る竜神たちは基本的に人間を守護する側の存在です。弁財天やオオモノヌシのように本体が蛇であるとされる神仏もいます。

    インド的ナーガ的なものから発展した仏法の守護者としての水神である龍王、皇帝の権威というイメージにもつながる中国的な龍、恵みの雨をふらせてくれる龍、逆に洪水や長雨の被害のもとになる龍、天地でいうと天の気を司るものである龍、東西南北でいる東をつかさどる青龍、如意宝珠をもつとされる仏法守護な龍王から庶民的なコミカルな表情の龍まで、基本的に善の存在でありつつ様々なキャラクターとして愛されているのが龍の特徴です。

    追記

    ※1 日本の龍は基本的に火か水かでいうと「水」の属性ですが、例外もあります

    ・例外1)妄執の蛇
    大蛇になった清姫が道成寺の鐘を焼くなどの煩悩の象徴として蛇になる場合など。(道成寺伝説)

    ・例外2)倶利伽羅の龍
    倶利伽羅(クリカラ)龍は刀剣にカッコよく刻まれることがあります。不動明王が龍に化身して外道の化身した剣を飲む話に由来するようです。(倶利伽羅大龍勝外道伏陀羅尼経)

    この場合は不動明王の変身した剣なので明王と同じで炎の雰囲気に見えます。

    外道:この場合は仏教用語で単純に「悪い奴」の意味(外道=仏の道を歩いていない存在、キリスト教会式に言えば異教。)

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